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久坂たちが出立してから数日間、稔磨は仕事で家に帰らなかった。
その間、紗恵は秘密裏に準備を進めた。
そして数日ぶりに帰宅した新婚の夫は、伊藤を連れて玄関をくぐった。
いつもとは逆で、なぜか伊藤の方が不機嫌そうな表情をしている。
「伊藤さん、こんにちは。今日は井上さんと一緒ではないのですね。何かあったのですか?」
「聞多は藩庁にいる。エゲレスの脅威をお偉いさんどもに伝えるために」
「ではなぜ伊藤さんはここに…?伊藤さんも帰国者なのに」
「俺は身分が低いから、上士の聞多と違って登庁を禁じられたんだ。こんな藩の一大事に、身分云々言ってるようでは、先が知れてるわ!」
伊藤の言葉の節々には刺がある。
よっぽど腹に据えかねているようだ。
一応まだ酒は入っていないようだが、今日の伊藤に酒を出したらとんでもなくめんどくさい事態になるだろうとは想像できた。
紗恵は念の為、稔磨が伊藤対策に用意している、とても度数の高い酒を準備しようと心に決めた。
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