永別にしないために

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「俊輔、今日はやりたいことがあるとか言ってただろう。その手に持ってる箱がそれなのか?」 稔磨がやさぐれている伊藤の気持ちを逸らすために、話を変えた。 伊藤は一転、何かを企んでいるような含みのある笑みを浮かべる。 「ああ、そうだった。これはな、エゲレス版の将棋だ」 そしてジャジャーンという効果音でもつけたくなるようなドヤ顔で、箱から盤と駒を取り出す。 「チェス!!」 目を輝かせた紗恵の言葉通り、確かに欧米版将棋とも言えるチェスのセットが取り出された。 伊藤は駒を並べながら、稔磨に挑戦的な目を向ける。 「稔磨、これで勝負しようぜ!」 「ほぅ…。面白そうだが、お前は俺に一度も将棋で勝ったことないだろう」 稔磨は稔磨で挑発に乗って、口角を歪めている。 「だがこのチェスは別だ。稔磨はやり方を知らんだろうからな!」 「…初めてやる人間相手に勝って、お前はそれでいいのか?」 (まあ負けるつもりはないけど) 稔磨は呆れを声に滲ませる。 「構わん。俺はこうでもしなきゃお前に勝てないだろうからな」 伊藤は卑怯とも、彼我の実力の差を知って開き直っているとも思える回答をした。 「だがそうだな…全く分からないままやっても対局にならんから、駒の動かし方だけは教えてやる」
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