153人が本棚に入れています
本棚に追加
「俊輔、今日はやりたいことがあるとか言ってただろう。その手に持ってる箱がそれなのか?」
稔磨がやさぐれている伊藤の気持ちを逸らすために、話を変えた。
伊藤は一転、何かを企んでいるような含みのある笑みを浮かべる。
「ああ、そうだった。これはな、エゲレス版の将棋だ」
そしてジャジャーンという効果音でもつけたくなるようなドヤ顔で、箱から盤と駒を取り出す。
「チェス!!」
目を輝かせた紗恵の言葉通り、確かに欧米版将棋とも言えるチェスのセットが取り出された。
伊藤は駒を並べながら、稔磨に挑戦的な目を向ける。
「稔磨、これで勝負しようぜ!」
「ほぅ…。面白そうだが、お前は俺に一度も将棋で勝ったことないだろう」
稔磨は稔磨で挑発に乗って、口角を歪めている。
「だがこのチェスは別だ。稔磨はやり方を知らんだろうからな!」
「…初めてやる人間相手に勝って、お前はそれでいいのか?」
(まあ負けるつもりはないけど)
稔磨は呆れを声に滲ませる。
「構わん。俺はこうでもしなきゃお前に勝てないだろうからな」
伊藤は卑怯とも、彼我の実力の差を知って開き直っているとも思える回答をした。
「だがそうだな…全く分からないままやっても対局にならんから、駒の動かし方だけは教えてやる」
最初のコメントを投稿しよう!