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「でしたら私と先に一局しませんか?稔磨さんなら、私と伊藤さんの対局を見ればやり方を覚えられるでしょうから」
「それは名案!俺もいい肩慣らしになるよ」
「へぇ、肩慣らしですか…」
紗恵は、このゲームは稔麿にルールを教えるためだから、それほど本気を出そうとは思っていなかったが、伊藤のあまりにも舐めきったセリフが紗恵のプライドに火をつけた。
チェスは久しぶりにやるが、日頃天才的なまでに賢い稔麿と将棋を指しているので思考力は衰えていない。
負けない自信がある。
紗恵は挑戦的に目を光らせた。
「それではやりましょうか」
紗恵は黒の駒の前に座る。
チェスでは常に白が先手。
後手でも負けはしないと自信を示した形となる。
「よろしくお願いします」
「よろしく」
伊藤は、強い自信を持つ紗恵に少しの恐れを抱いた。
(紗恵さんの将棋やチェスの才は知らないけど、俺はもしかしたら不味い選択をしたかもしれない)
しかし、戦う前から負けを感じるなど男が廃る。
絶対に負けるものかと強く思いながらポーンを進めてゲームを始めた。
チェスの初手は限られている。
したがって紗恵も迷わずポーンを動かす。
序盤はほぼセオリー通りにセンターの取り合いになった。
伊藤も稔磨に勝負を仕掛けただけあって、さすがよくチェスのセオリーが分かっている。
留学中、航海中、よくやっていたのだろう。
ゲームというのは言語の壁を越えて楽しく遊べるものだ。
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