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紗恵は自分自身も伊藤を舐めていたと感じた。
(これは…想像以上に強い。たとえ女好きでもお調子者でも、歴史に名前を残しただけのことはある)
「チェック」
早々に伊藤がキングを狙ってきた。
紗恵は慌てる風もなく、ナイトを使って伊藤のビショップを討ち取る。
これは大きな痛手だ。
局面は一気に紗恵の方へと傾いた。
しかし油断は禁物だ。
紗恵は焦らず、敵キングの退路を封じる。
伊藤は攻め手を繰り出せないまま守り手に甘んじる。
紗恵は取った伊藤の駒が半分を超えた頃、勝利を確信した。
そしてポーンをひとつ捨て駒にして道を開くと、クイーンを動かした。
「チェックメイト」
「…負けたっ」
紗恵の勝ちだ。
紗恵は勝利を宣言すると、誇らしげな笑みを向かいの伊藤と、傍らでゲームを見ていた稔磨に向けた。
「さすがだ」
稔磨は紗恵の頭を撫でて勝利を褒める。
「ちくしょー、紗恵さん強え」
盤面を悔しそうに睨みつけながら伊藤はゲームを思い返す。
「だけど稔磨には負けないからな!」
伊藤は次に向けて駒を並べ直しながら、稔磨に盤の前に座るよう促した。
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