永別にしないために

7/12
前へ
/281ページ
次へ
紗恵は自分自身も伊藤を舐めていたと感じた。 (これは…想像以上に強い。たとえ女好きでもお調子者でも、歴史に名前を残しただけのことはある) 「チェック」 早々に伊藤がキングを狙ってきた。 紗恵は慌てる風もなく、ナイトを使って伊藤のビショップを討ち取る。 これは大きな痛手だ。 局面は一気に紗恵の方へと傾いた。 しかし油断は禁物だ。 紗恵は焦らず、敵キングの退路を封じる。 伊藤は攻め手を繰り出せないまま守り手に甘んじる。 紗恵は取った伊藤の駒が半分を超えた頃、勝利を確信した。 そしてポーンをひとつ捨て駒にして道を開くと、クイーンを動かした。 「チェックメイト」 「…負けたっ」 紗恵の勝ちだ。 紗恵は勝利を宣言すると、誇らしげな笑みを向かいの伊藤と、傍らでゲームを見ていた稔磨に向けた。 「さすがだ」 稔磨は紗恵の頭を撫でて勝利を褒める。 「ちくしょー、紗恵さん強え」 盤面を悔しそうに睨みつけながら伊藤はゲームを思い返す。 「だけど稔磨には負けないからな!」 伊藤は次に向けて駒を並べ直しながら、稔磨に盤の前に座るよう促した。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加