永別にしないために

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「稔磨…以前より強くなってないか?」 チェスは初めてなので、おそらくは以前の将棋の腕と比べているのだろう。 他のゲームでも分かるくらいの成長とは如何ばかりか。 「そうかもしれん。日頃、紗恵を相手にしているからかな」 「そうは言っても、私に一度も負けたことないじゃないですか」 「でも何度もヒヤッとさせられている。夫としてまだまだ君には負けられないからさ」 曰く、紗恵に負けたくないがために腕を磨いていたようだ。 稔磨の成長に自分が貢献できているのは嬉しいが、勝ったことのない紗恵としてはなんとも複雑な気分だ。 「嫁にも張り合うような奴のくせに、いい嫁さん貰いやがって、ちくしょー!」 伊藤はゲームで圧されている逆ギレなのか、心底憎いといった表情で悪態をついた。 稔磨はそれをサラッと無視すると、ルークを動かしてさらに伊藤を追い詰める。 もう稔磨が大ぽかでもやらかさない限り伊藤に勝ち目はない展開だ。 「紗恵さん、稔磨に強い酒でも出してくれない?」 伊藤は、どうやら稔磨を酔わせて悪手を誘う魂胆のようだ。 丸見えの魂胆に、紗恵は苦笑して頷いた。 それに伊藤も機嫌が直ったようだし、ゲームも終わりそうなので酒を出すにも良いタイミングだ。
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