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伊藤は、今まで出会ってきた女とは全然違う紗恵の考え方に、友人の片鱗を見た。
(まるで稔磨が2人いるようだな。夫婦は似ると言うけど、ここまで似るものなのか?)
そして自分の目の前で繰り広げられる、愛おしげな視線の応酬に伊藤は言い様のないムカつきを覚える。
未来風に言うなれば、リア充爆発しろと言ったところか。
かつては女っ気のない友人を心配したものだが、それは全くの杞憂だったようだ。
むしろ妬ましい。
今後事あるごとに、櫛を贈り忘れるという有り得ない失態を蒸し返してやろうと心に決めた。
ところでチェスの結果はというと伊藤の逆転勝ちだった。
紗恵は許してくれたが、稔磨は動揺を抑えられなかった。
らしくないミスばかりをして負けた稔磨を、伊藤は勝ち誇った笑みを浮かべて見下ろす。
「おい、卑怯すぎるだろ!精神に揺さぶりかけて、油断を誘うとか!」
稔磨は伊藤を責めた。
紗恵や桂相手に負けたなら潔く負けを認められるというものだが、伊藤相手ではどうにもそれができない。
伊藤のニヤついた表情が、その感情を増幅させているというのもある。
「へっ、自業自得だろ。」
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