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生きるために
1864年
差し込む光を感じて紗恵は目を開けた。
そこに広がる光景は、紗恵が予想したものではなかった。
視界に入るのは白い病室とベッドではなく、木でできた壁と障子と襖と床に敷かれた布団だ。
「ここは、病院?」
紗恵が辺りをキョロキョロとしていると、障子が開かれ四十路と思われる女性が入ってきた。
「お嬢様、気づきはったか」
「…お嬢様?」
「へえ、えらい綺麗な振袖を着てはったさかい、どこかの裕福なお嬢様やと」
その瞬間、紗恵の脳裏に階段から滑り落ちる自分と両親の顔が映った。
「あ、あの!両親はどこにいますか?」
「倒れとったお嬢様を見つけた時、近くにご両親はおらへんかったで。それにしても、あんさんはなんであんな所に倒れとったん?」
「…」
女性は怪訝な表情を浮かべている。
(ダメだ、どうにもこの人の言ってることが理解できない。ママもパパも意識を失った娘を放置して去るわけがない)
「ん?あんな所?」
「そうや、すぐそこの畑のあぜ道に倒れとったんよ」
女性はそう言って、そのあぜ道があるであろう方向を指さした。
(そんな訳ない。あの階段の下にあるのは駐車場だった。近くに畑はなかったはず)
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