生きるために

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「あの、とりあえず両親に連絡を取ります」 紗恵はそう言ってバッグからスマホを取りだした。 しかし画面の左上にアンテナは立っておらず、圏外だと示している。 「その板はなんや?」 「…」 女性は怪訝な表情を深めている。 気を取り直して女性に向き直ると違和感に気づいた。 20××年現在では滅多に見ることのない日本髷を結い、褪せた色の着物を着る女性。 ライトもコンセントもない和室。 使えないスマホ。 ますます訳が分からなくなった紗恵は一度深呼吸して考えを巡らせる。 そしてひとつの結論に至った。 現実的には考えられないが最も納得しうる結論。 紗恵は意を決して女性に尋ねた。 「今はいつですか?」 「今は昼八つ(14時)や」 「…やつ?あ、いえ、今日は何年の何月、何日ですか?」 「文久4年の1月14日やよ」 恐れていた回答だった。
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