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朝日の差し込むダイニングに、白髪の女性が座っている。
ダイニングテーブルの上には、手のひらサイズの球体ロボットが一台。車輪の片方が外れており、ピサの斜塔よろしく傾いている。
「アト 5分 デス」
「わかったわ。ありがとう。出して」
キュイーンという機械音の後、オーブントースターが自動で開く。
中にはレーズンブレッドがひと切れ。こんがり焼けた肌から、ユルリと湯気を出している。
「バターを塗って」
キュイーン。カチカチ。
オーブントースターの中で、機械の触手が蠢く。レーズンブレッドの表面へ、均等にバターが塗られた。
「テーブルに置いて」
触手が伸び、艶やかなレーズンブレッドが白い丸皿と共にテーブルへと置かれる。
「さあ、いただきましょう。記録をつけてちょうだい」
「10月 8日 5時 25分 レーズンブレッド バター」
「違うわ。今は5時30分よ」
「5時 30分 テイセイ シマシタ」
「どうもありがとう」
女性はレーズンブレッドを千切り、口に運ぶ。
球体ロボットがグリンと転がってユラユラ揺れた。
「アト 5分 デス」
「なんのことかしら」
「レーズンブレッド ヤキアガリ アト 5分 デス」
「そう」
再び、球体ロボットがグリンと転がった。
「マダ ヤケテ イマセン」
「焼けてるわ。ちゃんと温かいもの」
「ジカン マモラナイ ダメデス」
「いいのよ、大丈夫」
球体ロボットはグルグル転げ回り、皿にコツンと当たって静止した。
「おバカさんね」
女性は、右手人差し指の第二関節でロボットを撫でた。
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