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パァン…
どこかで銃声が響く。
ここからそう遠くはない。おそらくは、近くに敵が来ているのだろう。
ハンドルネーム:ケルカは、自身のキャラクターを銃声がした方から遠のくように走らせた。敵が接近してきていると知らせていたBGMは、次第に音が小さくなっていく。
今、彼は最近流行りのゲームをやっていた。『Erase』というイギリス発のゲームで、5人の逃走者と一人の鬼強い警察官の戦いだ。警察官は逃走者を殺していいと言われており、逃走者はそれから逃げなければならない。
よくある脱出系のゲームではあるが、最近は特に人気のゲームだった。
ケルカは今のところ警察官とは接触していない。
逃げる方法はエリアにある洞窟に行くのと、車で公道を突っ走るかだが――洞窟の場所はわからない上、車のパーツは揃っていない。
「くっそ」
ボイスチャット外で、ケルカは舌打ちした。何とも運が向いていない。パーツにも、有効なアイテムにも出会えていない。あるのは初期装備の武器だけ。それは、他のユーザーも一緒のようだった。流れ込んでくるボイスチャットから、その不満が手に取るようにわかる。
『どこにも武器無いんだけど』
『車のパーツもない』
『もしかしてバグ?』
普段はバグの少ないこのゲームだが、予想外かつ理不尽なバグに、ユーザーたちの不満は溜まる。気が付いたら、その場に残されていたのはケルカと、ケルカの仲間であるハンドルネーム:ミズキだけであった。
ミズキはいわゆるリア友だ。このゲームの話で意気投合した後、一緒にマッチを回る間柄になった。
『あーあ、みんなアウトしてったね』
『ほんとにねえのかなあパーツとか』
『どうだろう。見た?このままだと初期装備ののこぎりしかアイテム無いんだけど』
『全く見てない』
メッセージアプリの通話越しだが、ミズキが落胆しているのが分かった。
『とりあえず、もう一回探そう。洞窟も』
ケルカはそう言って、自分の操作キャラを動かし始めた。
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