3/3
前へ
/8ページ
次へ
 最初に異変に気が付いたのは、ミズキだった。 『え?なんかあと5分って出たんだけど』 『は?』  時間を見ると、あと7分はある。現実世界なら2分くらい大したことないが、ゲーム内なら2分で大分状況が変わる。そんなバグがあるなら、即運営に報告ものだ。 『なんかフォントも違うし。なにこれ』 『ほっとけば?どうせバグかなにかだろ』  ケルカはもうすでに、コントローラーから手を放していた。暴れるのも武器が壊れたのでできなくなり、ミズキと雑談するくらいしかやることがない。  そのミズキに異変が起きたのは、残り3分――つまり、ミズキの画面で残り1分と表示された時だった。 『ん?なに、え?』  ミズキが何かを振り返って言う。キャラクターには何の動きもないが、ミズキ自身は動いているらしい。声がマイクから遠ざかり、布の擦れる音がした。 『どうかした?』  ケルカが問う。その問いに、ミズキは少し震えた声で答えた。 『 だ れ か い る 』  とたん、画面がぶつりと音をたてて、ノイズとともに不穏に切り替わった。  映ったのは、ミズキの部屋だった。  真っ暗な中に、ディスプレイの光だけが煌々とミズキの顔を照らしている。  ディスプレイを見つつ背後を振り返るミズキの顔はこわばり、肩が震えているのがわかる。机に手をつきながら、背後のドアを凝視しているミズキの目は、恐怖に歪んでいた。 『ど、どうしたって言うんだよ…』 『だ、だだって、物音が…すごい、物音がっ!!』  ヘッドセットのマイクでは、ミズキの声しか聞こえない。ケルカはミズキのその並々ならぬ様子に、得体のしれない気持ち悪さを覚えた。  気が付けば自分の画面にも、あと5分と出ている。  ゲーム画面の残り時間はもはや、何も示してはいない。  5分。  5分。  5。  その文字に、ケルカは吐き気とも、なんとも形容しがたい気持ち悪さを抱く。  それは、やがて現実になった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加