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姉は美しい人ではなかったが、優しかった。
そして温かい。何故か抱きしめることが好きで、ミウが近寄っていくと、大きな縫いぐるみを包み込むようにふわっと腕をまわした。
両親が他界して二人きりになってからはなおさら、二人はもう大人なのに挨拶代わりにだっこする。そのぬくもりは、王の愛人になり妊婦になり、赤ん坊を産んだミウにとって、いつも慰めになった。
姉はそっと扉のすきまからカイやブライトを見たことはあるかもしれないが、彼らがやってくると部屋に隠れて出てこない。
だからカイもブライトも姉をみたことはない。二人は守りの塔の儀式の部屋も、保管庫も、そして怪物のように膨大な知識を持つ姉の存在も見たことはないのだ。
「ねえ、お姉さま。この塔に扉がいくつあるか知ってる?」
「ひゃくはち」
多分、読みこんでいた資料の区切りの時に声をかけたのだろう。だから今日の姉の受け答えはとても普通だ。読んでいる最中だと返事ができないようだし、そもそもミウに気付かない。
「そうなの。陛下はね、ほとんどの部屋を開けてしまったわ。わたしにもお姉さまにも開けられない扉もよ? ただ彼にも開けられない扉がまだいくつか残っている。でも扉に選ばれない限り開けられないものね」
ミウは少し黙った。
「陛下の開ける扉の向こうはきれいな景色がいっぱい広がっているの。でもそれだけよ。人はいないし。ちょっと動物がいるくらい。ブライトさまは移動機を入れればその世界のさらに遠くに行けるんじゃないかって言っていたけど、あんな大きな乗り物は扉を通過できないわ」
姉はじっと黙って聞いている。子供みたいだ。
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