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プロローグ
その窓辺に腰掛けるとき、リン王妃はいつも彼の姿を探してしまう。
そんな風になったのはいつからだったのか、もう自分でもよくわからない。
だが今は剣の稽古の時間であり、彼は確実に中庭でその練習をする。そういった事が、無意識のうちにそんな仕草に結びつく。
「すばらしい上達ぶりでございます。はじめてこの城にいらした時には剣を持たれたこともなかったのに」
リンは煩わしそうに侍女の言葉をさえぎった。
「無理もないわ。陛下はそれまで信仰に生涯を捧げるおつもりだったのよ。寺院では武芸を禁じているのだから剣など…」
カイが王になって早四年が経とうとしていた。それはつまり二人の結婚がそれだけの長さになったという事でもある。
国中に祝福され、城は花で埋め尽くされていたあの日から四年。
リンは二十二歳で右大臣家の姫から王妃になった。カイは十七歳。
六歳年下の花婿はふってわいた運命にただ呆然とした頼りなげな少年だった。それは周りの目にも明らかで、堂々としたリンよりよっぽど気を使われていた。リンにはそれがふがいなく、無性に苛々した。
いや、苛立ちの本当の原因は他にあったのだ。
シータ王国では代々王室の直系の子供に、右大臣家もしくは左大臣家から結婚相手が決められる。
今期の王室には男の子が三人あった。
両大臣家にはリンの他に姫がいなかったため、彼女は生まれた時から次期王妃という立場が約束されていた。徹底した御妃教育で、物心つかないうちから王妃になる事を自覚させられ、同時に王になるべくして生まれた第一王子が自分の将来の夫なのだと強く意識していた。
勿論、高貴な身分の者同士、直接言葉をかわす機会などろくにない。それでも第一王子とすれ違うその瞬間、お互いがはっきりそれをわかりあっていた。
運命が急転したのは結納がかわされた二ヵ月後だった。
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