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流行り病が蔓延したのだ。
その猛威は国の人口を6%減少させるほど激烈だった。竜巻が大地をなめるような速さで国中に広がり、決定打となる治療を見つけ出せないまま、約七週間で唐突にその勢いを止めたが、被害はもはや取り返しがつかなかった。
王と第一王子、それについで第二王子までが相次いで亡くなったのである。
リンがその訃報を聞いたのは、花嫁衣裳の仮縫いをしている時だった。
泣きながら乳母が転がるように部屋に入ってきて事態を告げたが、到底信じられることではなかった。国葬が行われ、納骨が済んでもなお、夢を見ているような気持ちだった。
だがしばらくして我に返ると、今度は悲しみよりむしろ不安に襲われた。
夫となる人に死なれてしまった自分の運命はどうなるのか。
そしてその不安はそのまま右大臣家の危惧でもあった。
だから国中が喪に服しているうちから、すぐ大臣は姫の行く末を定めるために東奔西走した。そうでもしないとこのまま左大臣家の長男が王家の直系に変わって王座につきかねなかった為だ。そこで大臣が担ぎ上げたのが、王家にはないものとして扱われていた第三王子の存在だった。
第三王子カイ・シータは生まれてすぐに出家して寺院に預けられていた。
こんな事態でなければ、結婚もなく政治や貴族社会に関わることもなく信仰一色でその生涯は終わっていただろう。
彼の存在は王家とって禁忌だった。
彼は妾腹の生まれであり、その出生に絡んで王妃の逆鱗に触れたからだ。
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