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「疲れてなど……」
言いかけて、首を横に振った。
「そなた、下位の者からわたくしに直接話しかけることは叶わないのですよ」
「失礼!あ、ご無礼を致しました」
アルフは鳥肌が立った。
「幸い誰も聞いておらぬ。しかしここに誰かおれば、そなたを処罰せねばならなかった」
リン王妃は額に乱れ落ちた前髪を、象牙のような白い指でおさえた。
「アルフ、そなたはアルガ王子をどのようにお見受けいたす?」
低く静かな声で、リン王妃は言った。
「率直に答えよ」
「ご立派な御子にございます」
「そなたはこの半年、王子をずっと御守りしていた。ならば思うところがあるであろう。そのままに答えて欲しい」
アルフは答えに窮した。
「警備でしたら自信を持って御答えできますが、御守は不得手にございます。勝手がわかりませんので」
「左様であろうな……」
リンはふっと遠い目をして、黙り込んだ。
アルフは緊張したまま直立不動でいる。今まで警護についてからというもの、ヒステリックなリン王妃の印象しかなかったが、落ち着いた様子のリンは話す声も低く、品もあって、その違和感にアルフは戸惑っていた。
「アルガ王子は無事にお育ちになるであろうか」
「それはもう尽力いたします」
リン王妃は首を横にふった。
「皆はもうじゅうぶんに努力している」
アルフはますます意外な思いで答えに窮した。ここでみたリンはとにかく使用人に厳しく、どこまで仕えても満足してもらえるとは到底思えなかったからである。だからこうして、その努力に対して肯定的な態度を取られるのはあまりに予想外なことであった。
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