35章

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 詳しくはわからないが、壁には多数のガラスが埋め込まれていて、そこにずっと動く絵が映し出され続けているのである。  このガラスは姉が生まれるまで、ただの四角く区切られた壁の模様だと思われていた。しかし彼女がこの部屋に出入りするようになると、まるで眠っていたものが目覚めたように光を宿し、動く絵を映し始めたという。  この子にはきっと特別な力があるのよ。  父母は繰り返しそう言って姉の行動を見守っていた。姉はとにかく変わっていて、その部屋にあるものを片っ端から見続けていた。それだけが全てだった。他の何にも興味を示さない。  きっとこれがお姉さまのお仕事なのだわ。  ミウはそう思っていた。自分がやるのはずっと守りの塔に伝わってきた儀式。あとは普通の暮らしをすればいい。  でも姉にはなにか大事な使命があるのだ。そうでなくてはこんな極端な生活はとてもできない。  まるでそのために生れついたように、姉はずっとこの部屋で本や資料、画像を見続ける。姉の読むスピードは常人離れしていて、ガツガツと活字を貪る姿は、慣れているミウにすら鬼気迫って見えた。 「お食事、召しあがったかしら。私、これから食べるけどお姉さまは?」  姉は頷いた。姉は食事も非常に不規則だった。一個のパンで二日過ごしてしまうこともあるし、急に我に返って三人前くらいの量を食べるときもある。  ミウは台所にいつもスープや果物を切らせないようにしておき、姉はそれを自分のペースで食べた。それでもあまり減らない時は、こうして声をかけるようにしている。下手するとそのまま力尽きて床に寝ている時があるからだ。
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