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「あのね、陛下にはすごくきれいなお妃さまがいるの。
絵本の妖精の女王様みたいなのよ。ごめんなさい、何度も同じことを言って。でもあんなきれいな人は見たことがなかったから忘れられないの。
お城も凄く立派だったわ。寺院の花園なんて天国みたいにいろんなお花が咲いているのよ。でもどこでも私はすごく場違いだった……だからもう、外には出たくない」
ミウは目をぎゅっと閉じた。姉は抱きしめてくれた。活字しかしらない姉が妾妃たるミウの苦悩を理解できる訳もなかったが、妹が苦しんでいることはわかるらしい。
「陛下は全ての扉を開いてしまったらここには飽きてしまうかしら? それとももう私に飽きたの?」
ミウはもう姉の返事を聞いていなかった。
ずっと不安が消えない。
このまま、姉と赤ん坊と静かに暮らしたい。だが、本当にそれだけで満ち足りることはできるのだろうか。
いつもカイは優しい。しかしそれはひところの熱情から離れて、塔の管理人への労いや、子守役へのいたわりでしかない気がする。以前と同じように通っているのに、まるで見捨てられていくような感覚だった。
冷めたのかと思えば寂しくもなる。
その反面でいよいよブライトを忘れられない。
あの凛とした眼差し。ミウをかばうために立ちはだかったブライトの力強い背中。それが繰り返し蘇る。
そして、リン王妃が怖い。
この四つがとっかえひっかえ湧きあがってミウの心をかき乱す。
カイが王様だとわかってから、ミウの中で何かがかわってしまった。それまでの平穏な人生が一変し、激流に投げ込まれたようだった。
始まりの日、少年のようなカイの来訪にも動じなかった自分。初めはあんなに悠然とこの守りの塔の主として微笑んでいられたのに。
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