35章

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「お姉さま、私、苦しい……考えるほど苦しいの」  ミウは姉にしがみついた。  実際、カイは決して遠ざかっているわけではない。赤ん坊を溺愛していて、定期的に通ってくる。笑顔もみせるし、優しい言葉だってかけてくれる。にも関わらずミウの不安は一向に拭いされなかった。  カイに愛されている実感は希薄だった。形のないものには手の打ちようがなく、ミウは頼りなく苦悩の淵に沈んでいる。 「ミウ!いないのか」  だが、その声にミウははじかれたように部屋を飛び出した。  ブライトだった。  ブライトはラムダ退治の際に、この守りの塔の一部を損壊させてしまったことに責任を感じている。  普通なら権力も資金もあるカイが、技師をよこすべきだったが、守りの塔の特殊性と秘密が漏れることをおそれ、普請すらままならないでいた。  まさか貴人であるカイが手ずから大工仕事をする訳もなく、その技術も時間もなかった。  結局、塔の内部は部屋も多くあり、この壊れた部屋に固執しなくても暮らしに不自由はなかったため、そのまま放置されていたのだ。  しかし、ブライトは常にそれが気にかかっていた。ラムダから二人を救ったのだから感謝されて然るべきだが、結果として家屋を破壊したのは事実であり、そこで女子供がなすすべもなく暮らしているのだと思うと放ってはおけない。  ブライトは愛想よく親切を振りまく性質ではなかったが、いったん身内とみれば、意外なほどに愛情豊かにできていた。 「よし。人に頼めないなら、俺が直せばいい」 ブライトは単純明快に宣言して、修理を請け負った。
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