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有難いことこの上ない申し出ではあったが、大貴族の御曹司だけあって、一流品の道具を持参するものの、やり方がまったく覚束ない。
「この前、軍の知り合いに心得のあるものがいて、煉瓦の組み方を聞いてきたから大丈夫だ。今度は崩れない」
手先は器用だったのでブライトは一見うまく壁を直した。
だが、そこは素人であるからちょっとしたことで崩れてしまう。この壁を組むのはこれで三回目だった。ブライトはもう意地になっている。
ミウは嬉々としてその手伝いをした。
むろん、自分の家を直してもらっているのだから、手を貸すのは当然である。しかし、それ以上に黙々と作業するブライトに道具を手渡したり、お茶を用意することが楽しくて仕方なかったのだ。
しかしこの浮き立った気持ちを表に出すわけにはいかなかった。ミウはそんな自分の気持ちを感じるたびにきつく戒めた。ただ自分は人恋しいだけなのだと。
さすがに一連の作業に手慣れてきたブライトは、まるで職人のようにたちまち壁を組み立てた。
まだ作業は残っているが、固まるまで先には進めない。満足気にそれを眺めていると、後ろから聞きなれた声がした。
「これは、見事。ブライトにこんな才能があるとはな」
「あれ、カイ。よく時間がとれたな」
「イオターの言う通りにしてたら身が持たない。逃げてきた」
カイだった。
感心してブライトの直した壁をみつめ、固まりきっていない泥をつついている。この三人が同時にここにいるのは久しぶりのことだった。
ミウは何故か狼狽し、赤ん坊の様子を見てまいりますといって、奥に下がった。
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