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台所で飲み物の用意をし、その窓から二人が談笑する様子を見る。
ミウの手が止まった。
なんて楽しげに二人は話を交わすのか。
それは何とも言えない複雑な心境にミウを追いやった。ミウは気配りされていることを日ごろから感じてはいたが、この二人の、互いに気持ちの惹きあうような交わりを前にすると完全にかやの外だった。
それを二人が自覚しているかどうかはわからない。しかし、大した話でもないのに、カイにしてもブライトにしても、他には絶対に見せない和やかな表情だ。子まで成したというのに、ミウはあんな無防備な笑顔でカイに微笑んでもらったことは一度もなかった。ミウはざわめく気持ちをおさえかねてカーテンをしめた。
一方、ひとしきり軽口を叩き合うと、ブライトは真面目に切り出した。
「どうだ?最近」
ブライトは儀式の時の、カイの疲れた様子をずっと気にしていた。当のカイは一笑に付して取り合わなかった。
アルガ王子を得て、カイの中でリンとの仲は完全に終わったものとしてとらえられていた。
それでも出産の報を聞き、カイは地方から急いで駆け付けたが、医師に母子ともに絶対安静と言われ、面会は叶わなかった。そのままずるずると日は過ぎ、業を煮やしたカイが王妃の間に直接足を運ぶと、寝室から恐慌状態に陥ったリンの『絶対に陛下に王子を渡さないで!』と叫ぶ金切り声を聞き、カイはその拒絶にひるんだ。よくよく嫌われているのだ、と薄れかけていたその認識を思い知らされた。
そのため出生の儀がカイにとっても王子との最初の対面だった。
そして意外なことにアルガ王子をその腕に抱いた瞬間から、リンの公務への情熱は潮を引くように醒め、育児にその全精力を傾けるようになったのだ。
およそ母性とリンとが結びつかないカイは狐につままれたような気分だった。貴族は地位が高いほど乳母や教育係が子供の面倒をみる。その最もたる存在のリンが、庶民のごとく自分で子供の世話をするなどとは夢にも思っていなかった。しかし産後数カ月たち、リンは当面、公の場に出ない意向をはっきりと示し、カイもそれを許した。
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