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アルフが全て教えてくれた。
彼はリン王妃の杞憂を晴らすため、軍出身の敏捷さで守りの塔を偵察していた。むろん、かれはこの塔の中でカイの子供が育っていることまでは知らない。
だが、この塔の出入りは注意深く観察していた。そしてブライトが頻繁にここを訪れていることを知った。
アルフはカイを神のごとく崇めている。
ブライトの通う理由も追及しないまま、動物的嗅覚で、その行動に不信を抱いた。彼への嫌悪が判断を偏ったものにしていたが、あえて公正にする義理も持ち合わせていなかった。
カイはこのアルフの親切な忠告を、聞き流そうとした。むしろ間違いであることを確かめるため話に乗ってここにやってきたのだ。
だが、そっと門を開け、二人の様子をみて、声をかけるのをためらった。
木陰からカイはしばらく見つめていた。そしてミウの顔つきを見て笑い飛ばしきれなくなっていた。
カイは他人の感情の動きに敏感だ。だから大抵は見える。
ブライトはやはりブライトだった。目の前の作業を完成させることしか考えてない。負けず嫌いだから、請け負った仕事ができないなんて我慢ならないのだろう。
しかしミウは。
そこにはたしかに心の揺れがあった。ブライトに向けられる強い思慕の念は、一度もカイに向けられたことのない甘さを秘めていた。そしてそれを必死で収めようとする心の揺らぎすら見える気がした。
カイはここでどう出るか思案せずにはいられなかった。
「……ブライト」
カイはブライトの肩に手を置いた。
ブライトは片付けをしていた手をとめた。そして口ごもったカイの言葉を待って、微笑みかけた。
カイの心中など全く想像していない、屈託のない笑顔だった。
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