36章

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 リンは、この後に及んでなお、カイとミウとの動向を気にしていた。いやむしろ今まで以上にこの二人が親密になることを恐れた。  アルフはカイが目をかけて王子つきにした人物である。  カイの動きを探らせるには好都合だった。また軍人であるから行動力もあれば、諜報活動など器用にこなす。今までリンが使用人に守りの塔に見張らせても芳しい報告はなかった。彼らは結局、素人のまねごとであって、アルフのように手ごたえのある働きはできなかったのだ。  リンはアルフに毒を注ぐように金を渡した。  一働きするたびにちゃんちゃんと金貨を渡し、間違っても裏切ることのないように細心の注意を払った。  だが、さすがに金貨の効果は絶大だった。アルフは甲斐甲斐しく成果を上げた。彼はこの貴族社会において出生からもはや出世は頭打ちが決まっている。軍でその限界を思い知らされた。しかし財産はいくらでも蓄えられるのだ。それこそ軍人時代には考えもつかないような金額が簡単に手に入った。 「本日はご報告がございます」  いつの間にかリンはアルフの報告を聞かないと落ち着かないまでになっていた。  カイとミウの中に進展がなければ、精神が安らいだ。それを聞きたくてアルフを見張りに行かせては報告を聞く。それがわかってか、アルフはいつも静かに『異常なし』を告げる。 しかし、この日は違っていた。 「実は気になることがございます」 「申してみよ」 内心ギクリとしながら先を促した。アルフは頬を紅潮させて進言した。
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