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「あの守りの塔には、右大臣家のブライト様も頻繁にお通いのようなのでございます」
「…………」
リンは瞬きをせずに、アルフをじっと見つめた。激しく頭を回転させている時、この人物は一点を凝視する癖があった。
アルフは畏まりながらも早口で続けた。
「当初は陛下のお伴で出入りしていたように見受けられたのですが、ここしばらくは自主的に出向いているようです。移動機に荷物を積んでいるようにも見うけられます」
「……そなたは、それをどう思う」
リンはようやく口を開いた。
「邪推ながら、陛下の寵妃に横恋慕されているのではないか、と。もしくはミウとブライト様とで何か共謀していることがあるのか」
「不穏な……」
「左様でございます」
これは全く予想していないことだった。
煮詰まっていた関係に新たな方向が見えたような気がする。
リンはブライトの性格をアルフよりは正確に理解していた。あの堅物のブライトが、横恋慕などという面倒な恋愛をするわけがない。かといって思いつきでふらふら外出するほどマメでもなかった。
それでは何のために個人的に守りの塔に出入りをするのか。用があるか、イオターあたりに護衛でも頼まれているのかもしれない。もしくはカイかミウに依頼された何かがあるのだ。それが何なのかリンは猛烈に知りたかった。
その一方で、この状況はカイに不信を与えるのにちょうどよかった。
どんな用事であれ、カイのいない間にその愛人の家に頻繁に出入りするというのは誤解のもとであり、そこを突けば人間不信のカイは鷹揚に構えてもいられまい。そしてこれを発端にミウと不仲になってくれればこんなめでたいことはない。
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