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「アルフ、内々に陛下にご忠告申し上げよ。来週にはアルガ王子のご成長を報告に参るのであろう?」
「はい、しかし確かな裏付けは何もなく」
「どちらにせよ塔の中に入れない以上、裏付けの取りようもない。
だが、陛下がもし、ご親友のブライト殿と寵妃に裏切られているのならば即刻それをお知らせせねばなるまい。
そなたも、陛下に恩義のある身の上。真偽のほどはともかく、気がついたことがあれば、お力にならねば。まして事が真実であれば、陛下はあのように傷つきやすい純粋なお方、誰かが御守りせねばならぬ」
アルフは深く頷いた。リンはいかにも痛まし気に言葉をつづけた。
「ブライトさまも人の子であれば、道に迷う事もあおりかもしれぬ。ことに塔の女は陛下をたぶらかした悪女。となれば、どのような邪な心根で真面目なブライト様に接近しておるのか……。
しかしそなたの陛下への忠誠心は曇りない。いよいよ陛下を御守りするべきなのはブライト様ではなく、そなたなのかも知れぬ」
リンに自尊心をくすぐられ、アルフはのぼせて頷いた。王妃から信頼され、その口から王の側近にふさわしいという太鼓判を押されたとなっては、舞い上がらないはずがなかった。
リンは屈んで金貨の入った袋をその目の前に落とした。
「陛下はわたくしを苦手でおいでだ。私の名を出せば余計な邪推をされるであろう。よいか、忠告の際には私の名は一切伏せ、そなたが気付き、そなたの考えでお知らせしたことにするように。そうすればより一層、陛下はそなたを信頼されるに違いない」
「かしこまりました」
アルフは床に頭をすりつけるようにして平伏した。しかし身をかがめたその隙間から手をのばし、しっかりと金貨の袋をつかもうとしている。
リンは眉をしかめて、その下賤な手のひらを睨みつけた。
しかし本当に卑しいのは、何もかも偽りで塗り固めて、その本音から目をそらしている自分自身なのかもしれない。リンはちらりとよぎったその考えを打ち払うように扇を開いてアルフを視界から消した。
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