プロローグ

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 王室で妾妃をおくことは歴史的にも特別な事ではなかったが、悋気の強い性格の王妃は決して許さず、ましてその子供に至っては王室の子供と認めなかった。正しい血筋を引いていないのだから王位継承権はないという論法だ。  右大臣はあらゆる政治的策略をめぐらしてカイ王子を寺院から王宮に連れ戻し、時期王位継承者としての手続きを始めた。  途中、左大臣家から相当の妨害があり、貴族社会の賛否も微妙な均衡だった。その背景として左大臣家の長男が非常に優秀で、王にふさわしい品格を持ち合わせ、王宮での評判が高かったという要因がある。  一方のカイは、ずっと山寺に引き持っていたため、貴族に必要な教養を全く持ち合わせていなかった。  右大臣は世論をカイにつけるのに並々ならぬ根回しをしなければならなかった。血眼になってカイ王子を支持し、病の床で意識の混濁する王妃からも強引に承諾を得た。  いくら妾腹の出でもカイが第三王子である身分は事実なのだ。  結局、カイは継承権を獲得し、同時にリンは第一王子との結納を解消して、改めてカイ王子との縁組を成立させた。    婚礼の日、右大臣の喜びようとは裏腹に、リンは不満たらたらだった。  第一王子は年上で、容姿物腰ともにいかにも貴族的だったが、この庶民の歌姫に手をつけて生まれたという第三王子は慣れない王宮でのしきたりに始終おどおどしていたし、山寺での生活のせいで場違いな泥臭ささえ感じる。  よりによってこんなみすぼらしい子供が生涯の伴侶だなんて。  それは最高の結婚を確信していたリンにとって受け入れがたいことだった。
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