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「ブライト様の動きはいつも美しゅうございます」
侍女はほれぼれとカイの剣の相手を見つめた。左大臣家の長子、ブライトである。現在は両大臣家との取り決めで、カイの教育係をしている。リンは窓を開けようとする侍女を制した。
「結構よ。下がっていて」
「十時には右大臣さまがお見えです。それまでにお支度を」
「わたくしは会わないと言ったはずだわ」
リンの表情が険しくなった。
だがこの侍女はリン幼少から使えた右大臣家からの召使である。乳母の娘でもあり、リンの突き放すような物言いには慣れている。
「お時間までには参ります」
有無を言わさぬ強さで部屋を出て行った。リンは返事をせず、窓の下を見つめた。
カイはこの四年で見違えるように変わった。
背が伸びて、子供だった輪郭が大人びて鋭くなり、光の強い眼差しと釣り合いがとれるようになった。
もし、はじめて出会った時に、彼が今の彼だったなら。
今更ながら、そう思うときがある。
あんな子供の姿ではなく、武芸も教養もマナーも身につけた、今の姿だったら。そうしたら。
違う今があっただろうか。
もしかして、何もかも変わっていたのではないだろうか、と。
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