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カイはリンに触れない。
仕事に必要な言葉以外、話すこともない。最近は政務を理由に自室に閉じこもったまま夫婦の寝室にも寄り付かなくなった。
毎晩、ベットでカイのことばかり考える。
不本意だった。軽蔑していた男のことを考え続け、待つという事が。
この部屋にくればまた、ぎこちない時間が過ぎるだけだとわかっていても、放置されている事がリンを傷つけた。
リンにとって夜は憎むべきものだった。
無事に政務をこなして部屋に戻ると、うまくかわしたと思っていた実母がすでに部屋でお茶を飲んでいた。
「どういうことなの」
リンは懸命に押さえた声で部屋付の侍女を咎めた。実母はカイとリンの結婚生活の現状をつかむため、召使達に心付けを渡している。
「まあ、王妃ともあろう御方がそのように感情を顕わにされるなんて、はしたないことではありませんか」
さっそく侍女との間に入って、母は話の主導権を奪った。
「今日の陛下のご予定は?」
「いつものように剣のお稽古をされたら、謁見のご予定が詰まっておいでよ。とてもお忙しいご様子だわ」
「王妃もご一緒されたらいかがかしら?」
母はにこにこと微笑みながら政務の段取りを無視した返答をした。
いや、母といえど大貴族の娘であったのだから、わかっていて口出ししているのだ。つまりもっと一緒にいろと。
「わたくしにはわたくしの政務があります。勝手は出来ませんわ」
「お茶会や観劇より、お世継ぎを授かることの方がよほど重要な政務でははありませんか。稽古でご一緒している分、ブライト様の方があなたより陛下に親しいみたい」
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