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「ブライト様とわたくしは関係ありませんわ。今日は何の御用ですの」
もはや苛立ちを隠さず、リンは切り捨てるように言った。母はいそいそと近づき、リンの手に緋色の布を渡した。
「御子に恵まれますようお守りを頂きましたの。どうぞ普段から身につけられますように」
「お心遣い感謝します」
リンはそのまま受け取った布を侍女に渡した。
「一日も早い朗報をお待ちしてますわ」
「せっかく来ていただいたのに残念ですが、次の予定がありますから」
「陛下の民衆からの人気は日に日に高まっておられます」
リンの素っ気なさなど意にも介さず、母は続けた。
「王位につかれた当初は如何なものかと…あの時期、政局はむしろブライト様を王位に望む声の方が強いほどでした。でも実際こうして時が過ぎれば風格さえ出来ていらして。
でも王座につくには血統や運だけでは駄目ですわ。とにかく王位はプサイ神の祝福を受けた能力者であることが最も重要なのですものね」
「ええ」
「まさか陛下が妾腹の出でありながら、あれほどのプサイの力を有しているだなんて誰が想像し得たでしょう。でも、能力はあっても使い方が定まらず……これでは民衆を納得させるにはいささか力不足と申さねばなりません」
母はひたっとリンを見上げた。
「わかりますね? この国には次世代の王が必要なのです。陛下も努力されているのはわかりますが、血に濁りがございます。ですが、貴族の中の貴族であるあなたと契ることで、新しい御子はその汚れを払拭してくれるでしょう」
「そのお話はもう結構よ」
つい、リンは繰り返される話に拒絶の悲鳴を上げた。だが、母親はひるむどころか、ぐい、とさらに一歩リンに詰め寄った。
「そんな御様子では、宮中での噂をご存知ないのね」
「噂話など、いちいち真に受けていられませんわ」
「たとえ噂でも、陛下に寵姫がいらっしゃるとなれば事は重大ですわ」
リンは驚愕を隠しきれず、一瞬声が出なかった。
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