坂田紗優

4/10
前へ
/348ページ
次へ
 そして、鏡に映らないよう意識しながら従業員専用の控室へと姿を消す。着信ゼロ。紗優はこころから安堵する。……ここに来るたびに携帯を確かめる癖ができてしまった。一時は、保育園からの呼び出しが本当に恐ろしかった。頼めば、近くに住む紗優の母が迎えに行ってはくれるが、紗優は、あまり母親に貸しを作りたくなかった。美和は、土日はじいじばあばの家に預けられることが多い。手を借りているのに言うのはなんだが、なんというかばあばが、『してやってる』的な態度に出るのが気に食わなかった。そういう、ぎすぎすした関係性は必ずや伝染する。それを紗優は快く思わなかった。  美和の前では、ばあばとママがフラットな関係で。いつもにこにこしているのが望ましかった。どちらかに負荷が掛かり過ぎると不満が鬱積する。そうするとろくなことにならない。ただでさえ、ばあばは『紗優は頼り過ぎ』といつも言っているのだから……。  店の営業時間は二十時までだが、紗優は大概十九時であがる。客が引けるときはもっと早いときもある。この美容室の店長の配慮にはものすごく助けられている。いつか、紗優も自分の店を持ちたいが、そうなるとこうはいかない。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!

713人が本棚に入れています
本棚に追加