プロローグ

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プロローグ

それは突然、目の前に現れた。 古くて美しい洋館は、まるで自分を呼んでいるようだった。 そう、その洋館は生き物のように訪れる者を選び、建物の中へと誘う。 洋館の中に入ると、所狭しと本が本棚に並んでいる。 思わず、一冊の本に目が留まった。 古いテーブルの上に置かれた、皮の表紙の洋書のような作りの本。 その本はまるで自分を呼んでいるようで、誘われるようにテーブルへと歩を進める。 古い洋館なのに埃一つ落ちていない、洋風の木目で出来た猫足テーブルの上に置かれた本に思わず手を伸ばす。 本に触れるか触れないかの距離に手が伸びた瞬間 「ようこそ、思い出の館へ」 と、声を掛けられる。 驚いて見上げた先に、木の螺旋階段からゆったりとした足取りで女性が降りてくる。 思わず息を呑む程に美しい女性は、昔、子供の頃に本に出て来たお姫様のような髪型と服装をしていた。 唖然として見ていると、さっきまで目の前にあった筈の本が彼女の手の中にある。 驚いてテーブルを見下ろすと、そこにあった本は跡形もなく消えていた。 奇妙な館に思わず恐怖心が湧く。 しかし、彼女は優しく微笑んで 「椅子にお掛け下さい。これからあなたに、ひとつの物語をお聞かせさせ致します」 そう語りかけた。 その声は低く、でも心地の良い声だった。 まるでその声に誘われるように、近くにあったヴィクトリアンチェアーに腰掛けた。 ふかふかのクッションが座り心地良い。 思わず椅子に感動していると、目の前にティーセットが置かれている。 ベルガモットティーの香りが鼻腔を掠め、自分の斜め前に腰掛けた彼女が本を開く。 「それでは、あなたにはこのお話をお聞かせしましょう…」 彼女の綺麗な指が、本のページを捲った。
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