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 例え話だと思って聞いてください。  ある女子寮で窃盗被害が起きました。盗まれた物は財布です。二つ折りの茶色のどこにでもある形です。  中身? ああ、中には三万円程といくつかのポイントカードが入っていました。  被害者は友達の部屋で勉強をしていました。途中、教科書の不備に気づき自分の部屋に戻った時、財布が盗まれたことに気づきました。彼女はいつも勉強机の隅に財布を置いています。あるはずの物があるべき場所にない。それはとてつもない違和感です。だから彼女はすぐに被害に遭ったことに気づいたのです。  部屋に鍵はかかっていたのか? もちろん鍵はかけられていました。ちなみに部屋の窓も開いていなかったようです。  つまり部屋は密室だったんです。  あ、それは違う? 確かに過言でした。すみません。  おっしゃる通り鍵があるので密室は作れません。部屋には鍵が三つありました。  一つは被害者が持っていました。彼女はスマホにストラップと一緒に鍵を付けていたそうです。犯行推定時刻、スマホは常に彼女の手元にあったそうです。勉強でわからない問題が出た時にスマホで確認していたそうなので、間違いはありません。彼女の鍵は犯行には使われていません。  二つ目は寮監室にありました。いわゆるマスターキーです。その鍵では寮の全ての部屋の開け閉めが可能です。この鍵を使えば犯行は可能ですが、しかし犯行推定時刻に寮監室の先生が部屋を出たところを目撃した生徒はいませんでした。先生は寮監室である生徒から悩み相談を受けていたそうです。つまり何者かが寮監室に侵入し鍵を盗むのも、もちろん先生が犯行を犯すのも不可能です。つまりマスターキーも犯行に使われていません。  あ、そうだ。言い忘れていたことがありました。  寮の部屋は意外と広いんですよ。一人で使うには持て余してしまうし、けれども三人で使うには窮屈です。  部屋は二人部屋だったんだな? 正解です。どの部屋も寮生が共同に使う二人部屋です。  被害者の部屋には鍵がかかっていました。外部の者による犯行ではない以上、悲しいことにある寮生が罪を犯してしまったんです。  鍵は三つありました。一つは被害者の手元。二つ目は寮監室にあったマスターキーです。そして三つ目はもちろんもう片方の同居人の手元です。  例え話が長い? すみません。もう少しで終わります。  え、もう犯人は明らかだって? なら、教えてください。  犯人は同居人以外ありえない? なるほど。  つまり。  犯人はわたし以外ありえない、と。
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