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「あと、神がいなくなったフィズ山脈も心配いらないよ。人々や獣たちが山脈を大切にしていれば、そのうち新たなフィズ神が生まれるからさ」
「神の事情は、よくわからねーな……」
その後、3人は住民たちに見送られながら、旅の第一歩を踏み出した。
****
住民の姿が見えなくなり、周囲は草木ばかりになる。林道は獣道と化し、徐々に歩きにくくなってゆく。大きな木の根を超えながら、ジークはふと昨晩のことを思い出した。
「そういえば……その、グラドが邪竜っていうのは……本当なのか?」
「まあね。秘密にするつもりはなかったけど、言うきっかけもなかったし」
あの後、巨竜像から降りてきたグラドはいつもの姿だった。それと同時に、携えていたリボルバーも黒い液体となり、跡形もなく消えてしまった。
「オレは神話に出てきた邪竜の一部で、メトの祖先は伝説の神官のひとり。懐中時計は、オレたちの力を封印する器。これを通して神官の“許可”が出たら、オレたちは本来の力を解放できちゃうっていう恐ろしい代物」
「おお……一気におとぎ話っぽくなったなあ……」
今回の件で、神を淘汰せんとする勢力があることが明らかとなった。無論、グラド以外の邪竜にも神壊しのハンターが迫っている可能性はある。もし邪竜が妙な考えでも起こせば、町のひとつやふたつ、すぐに火の海となるだろう。
最悪の事態を防ぐため、各地の邪竜を説得することが旅の本当の目的だ。
とはいえ、他の邪竜の居場所まではわからない。唯一わかっているのは、邪竜封印の地である神峰アルカディアに安置されている"カーディナルの頭"だけだ。
他の3人がどこにいるのかは、アルカディアへ向かいながら、各町のグラスなどで情報収集するほかないだろう。
そのとき、メトルルカが木の根につまづいた。転ぶ直前、グラドとジークが左右から彼女の体を支えた。修道服で林道を歩くのは骨が折れるだろう。
「メト、杖代わりにこれ使う?」
するとグラドが棒状の何かを差し出した。受け取ってみるとそれはカジノが使っていた斧槍だった。メトルルカとジークはぎょっとして思わず肩をすくめた。
「竜の力を使わなくても戦えたほうがいいと思ってもらっといた。……かっこいいし」
「グラド、後半で本音が漏れてるわよ」
この旅が決して楽な道のりでないことは、3人ともわかっている。だが、カジノのようなハンターが大勢存在することを考えると、居ても立ってもいられなかった。
怪物の口のように暗い林道が続く。誰一人弱音を吐くことなく突き進んで行く。
向かう先は、大陸の東側で最も大きなグラスが建つという都市、ソノラだ。
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