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「えー迷っちゃうよお。とりあえず燻製肉を乗せた油麺にしよっと」
「メト、結構ガッツリいくんだな……じゃあおれは香草の蒸しパンにするか」
2人がそれぞれ食べ物を買っている間、グラドはふらふらと屋台を見て回っていた。ここの屋台広場は、食べ物売りだけでなく骨董品や装飾品などの珍品売りもいるようだ。
ふと足を止める。そこにはさまざまな地方の鉱石を扱う店だった。
店頭に置かれた琥珀色の鉱石を手に取ると、真上で輝く太陽にかざした。硬く不透明な石にも関わらず太陽光を通すその鉱石は、星のようにきらきらと輝いた。
「ぼうや、それが気に入ったかい?」
店の奥からしゃがれ声がした。よく見ると、夕闇色のローブをまとった老婆がいた。
「綺麗だろう。だが綺麗なだけさ。装飾品にするには地味過ぎる上、鉱石としての価値もないただの石さ。そんな売れ残りの石でも気に入ってくれたなら、持っていきな」
「へえ。じゃあもらってくよ。ありがとうバーちゃん、代わりにこれあげる」
グラドは琥珀色の石を皮のポーチに入れると、お代とばかりに老婆の手元へ小石を置き、鉱石店を後にした。残された小石は、まるで竜の血のようにかすかに赤黒く光っていた。
グラドが戻ると、すでに2人は食事を終えていた。
「おかえり。何か面白いものでもあった?」
「いろいろあったよ。装飾品店とか薬草のお店とか」
微笑むメトルルカの口元は油で濡れ、少し艶っぽくみえた。ジークもおいしそうに蒸しパンをかじる。
「旅に必要な物はここで全部揃えられそうだな。あとは邪竜の居場所がわかりゃあ一石二鳥なんだがなあ」
「そう言わないでよ。邪竜どころか、グラドのことだって知らなかったんだから……」
グラドは木のテーブルに腰掛けながら、気まずそうに眉を寄せた。
「メトのカーチャン、オレのことを伝える前にいなくなっちゃったもんなあ」
アイデアル・グラスの前神官であるメトルルカの母親は、昨年、不慮の事故で帰らぬ人となった。それまでは、彼女が神官としての役目すべてを担っていた。メトルルカも、神官としての基礎知識や神技などは身につけていたものの、グラドや邪竜についてのことはほとんど何も聞いていなかった。
「オレも、メトが成人したらある程度伝えようって思ってたんだけど、なんかゴメン。本来だと次世代の神官が成人の儀を終えた時点で語り継ぐことだったから……」
「グラドが謝ることじゃないわ。でも、他の邪竜の場所がわからないのは鬼門ね……」
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