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邪竜や神官の情報を入手するため、とりあえず、この辺りで一番大きなグラスが建つソノラへやってきた。もっとも、普通の住民が邪竜や神官のことを知っている保証はない。
メトルルカは、周囲ではしゃぐ子どもたちを何とはなしに眺める。
(この子たちは……この世界が崩壊するかも知れないなんて、思いもしないのよね)
邪竜や、彼らを監視する神官に関する情報は、神官から神官にのみ語り継がれる。というのも、各地の邪竜が集えば、邪竜カーディナルは本来の力を取り戻してしまうからだ。
邪竜に再び世界を支配されないためにも、彼らの居場所は極秘中の極秘であった。
「でも皮肉だよなあ。カジノの『邪竜を集めれば世界を征服できる』ってのも、まんざらウソでもなかったんだからな。まあ実際に征服するのは邪竜だけどな」
「邪竜って言っても……グラドは別に、邪竜として復活する気はないんでしょう?」
グラドはジークの水を勝手に飲みながら、うんうんと頷いた。
「オレはないよ。だけど、他の邪竜もオレと同じ考えとは限らないから」
それって……とジークが口を開きかけたそのとき、グラドの足に誰かがぶつかった。
「おっと、大丈夫?」
そこには尻もちをついた女の子がいた。グラドは女の子の目線までしゃがみ、手を差し伸べた。しかしグラドの顔を見た瞬間、女の子は持っていた人形を落とし、腰を抜かした。
「あ……あ、あ、ワルツ様と同じ……緑目……竜! ご、ご、ごめんなさい……!」
そして怯えたように涙を流した。すると母親らしき女性が慌てて2人の間に入る。
「ああ竜神様! 申し訳ございません! 申し訳ございませんっ! ですがどうか、どうか、この子の命だけは……! 代わりに私の命を差し上げますので……どうか!」
その途端、周囲の人々が一斉におののいた。屋台はカウンターを閉め、住民たちは皆一様に平身低頭でひれ伏せた。突然のことに3人は立ちすくむ。
「な、なんだ……!」
「どういうこと? 何が起こっているの……?」
グラドは困ったように首をかしげる。その一挙一動に住民はさらに怯えた。
「うーん、困ったなあ。オレは何にもしないんだけど……」
とりあえず女の子を慰めようと、グラドは人形を拾い上げる。ゆっくり差し出すと、女の子は涙ぐみながらもグラドと人形を交互に眺め、恐る恐ると震える手を伸ばした。
だが次の瞬間、女の子と母親は姿を消した。正確には大槌につぶされていた。
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