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「グラド……しっかりして……」
「心配ありません、コスモポリタン神官。邪竜はこれくらいでは死にません」
メトルルカはハッと顔を上げた。こちらを見つめるクラリッジの瞳は、朝の雲海のような金色をたたえた、静かで清冽な眼差しであった。
「私はソノラ・グラスの神官、マロロアニア・クラリッジです。ソノラまで、遠路はるばるよくおいでくださいました」
治癒の神技を唱え終えたクラリッジは近くにいた衛士たちを呼び寄せた。そしてグラドを担架へ乗せるよう指示を出し、ジークとメトルルカに入館を促した。
大扉をくぐり、礼拝の間へと進む。天井はかなり高く、足音がよく響いた。正面に設けられた祭壇の中には、アイデアル・グラスと同じく巨竜の石像がたたずんでいた。しかしその姿は、アイデアルのものより筋骨隆々でたくましいものだった。
前を歩くクラリッジからは、咲いたばかりの花のような気品ある香りがした。
「あなたがたがこちらへ来られたのは、神壊しに関することでしょう。ですが、ひとまずはお休みください。部屋はこちらで用意いたしました。ワルツォーネ様も神槌ドランハンマーの使用後はしばらくお休みになります。話し合いは午後からが良いでしょう」
話が勝手に進められる。メトルルカは引き止めるようにクラリッジの隣に並んだ。
「え、ええっと、わたしはアイデアル・グラスの神官メトルルカ・コスモポリタンです。あの、グラドを手当してくださったことは感謝しています。でも……なんであのワルツって人はいきなりグラドと……住民を襲ったんですか」
クラリッジは、目とよく似た金糸色の髪を掻き上げ、上品に微笑んだ。
「先程は驚かれたことでしょう。ソノラの守護神ワルツォーネ・デビル様は、グラディウス様と同じ邪竜であり、人間が嫌いな方なのです。人間のような存在がグラディウス様に粗相をしたとあれば、お怒りになられるのも当然です。うっかりグラディウス様にも手が飛んでしまったようですが、悪気はございません。どうか、お許しください」
花弁のような唇から発せられた言葉の数々に、メトルルカは耳を疑った。それはジークも同じであり、無意識の内に刺剣へと手が伸びていた。
「神なら……住民の命を奪ってもいいのかよ」
「愚問ですわ、アイデアルの衛士様。永きにわたり町を守護してくださっている神なのですから、私たち人間が、彼の機嫌を損ねることこそおこがましい」
平然と言ってのけるクラリッジから、嘘ついている様子は見られなかった。
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