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「今晩はこちらの二部屋をお使いください。中の調度品はご自由にお使いいただいて結構です。ワルツォーネ様が起床次第、夕食と致しますので、そのときまた呼びに参ります」
ソノラ・グラスの一角にある客間へと通された2人へ、クラリッジは一礼する。衛士たちもグラドをベッドへ下ろすと、早々に立ち去った。
残された2人は、ひとまずグラドの横に腰を下ろす。しかしどちらも口を開こうとはしなかった。しばらくの沈黙の後、口火を切ったのはジークだった。
「……気分悪りぃな」
メトルルカも無言で頷く。眠るグラドの手を握ると、自然と涙がこぼれた。
「うん……おかしいよ。だって……グラドだって神だけど、機嫌が悪いからって町の人を傷つけようだなんてしないよ。神からの暴力を当たり前のように受け入れてるこの町の人もクラリッジ神官も、ワルツって神も……皆、おかしいよ!」
「うーん、そうだよなあ」
すると、グラドがむくりと体を起こした。
「神を信仰してるって言うより、怯えてたもんなー。恐怖政治ってやつ?」
「お、おいグラド、もう起きて平気なのか?」
驚くジークとメトルルカの前で、グラドはひょいと起き上がった。体の傷は跡形もなく消え去っており、血の染みがなければ先程まで重症だったとは思えないほどであった。
「うん。クラリッジ神官も言ってたけど、邪竜……ていうか神は多少の傷じゃなんともないよ。この懐中時計さえ無事なら、何度だってよみがえれる」
胸元から懐中時計を取り出す。美しい骨董品は乱れなく時を刻んでいた。
「その時計、力を解放するための器……って言ってたよな」
「そう。正しくはオレの力の入れ物。前にも言ったけど、神は気力のかたまりだから、備わってる力自体が人間で言うところの魂なんだよね。で、オレの力のすべてが入ってるこの懐中時計は、オレの魂そのものってこと」
グラドは懐中時計を首から外すと、ジークへと投げ寄越した。
「わ! わっ!」
「あはは、落としても壊れたりしないよ。まあ、オレがケガすればそいつも壊れていくけどね。で、その懐中時計の傷を直す唯一の道具がコレ」
今度は革のポーチから小石を取り出しメトルルカへと渡した。それは先程、露店商からもらった琥珀色の鉱石だった。
「それは『ニコラシカ』っていう石。懐中時計とその石を腕利きの鍛冶屋に渡せば直してもらえる。けど、腕のいい鍛冶屋もここ百年で、めっきり減っちゃった」
グラドはベッドの端に座ると、髪を掻きながらさみしげに苦笑する。
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