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「オッケー、メト。念のため、果樹園には他の住民が来ないようにしといてね!」
グラドがかかとを鳴らす。次の瞬間には、住民たちの目の前からいなくなっていた。何が起こったかわからない果樹園の管理人は、ひとり困惑する。
「えっ、えっと今の少年は……成人前の子どもひとりで巨獣の相手など……」
「そういえば管理人さんは、最近マドラシアから越して来られたのでしたね」
メトルルカが祭壇を見上げる。管理人もつられて顔を上げた。
「グラド──グラディウス・ガルフストリームは、この町を守護する神竜なのです」
祭壇の囲いの中には、巨大な竜の石像がそびえ立っていた。
****
果樹園には、たわわに実った果実を食い荒らすグリズリアの姿があった。
たくましい体と鋭い爪を持つ巨獣は、駆けつけたグラドを視界に捉えた途端、勇ましく咆哮した。一瞬にしてグラドとの距離を詰めると、巨大な手を勢いよく薙いだ。
「おっと」
グラドはひょいとグリズリアの手をかわす。巨獣はさらに追撃を繰り出すが、どの攻撃もたやすく避けられてしまう。それどころか、グラドは獣の手を掴んでしまった。
「ちょっとグリさん、まずは話をしようじゃないか。ここはオレのテリトリーなの」
手を掴まれたグリズリアは、血走っていた目を瞬かせ、グラドをじっと見つめた。
「……お前は、ここの土着神か」
そのとき、メトルルカと管理人が果樹園へと到着した。
目の前では、丘と山ほどの体格差があるグラドとグリズリアが向き合っていた。するとグリズリアは、グラドの前へと腰を下ろし、疲れたように鼻息を吐いた。
「我とて好きでここへ来たのではない。“神壊し”に追われて、逃げてきたのだ」
「神壊し?」
頷いたグリズリアが背を向ける。そこには痛々しい複数の裂傷があった。
「我はここより北西のフィズ山脈の神。この傷は先日、山へ入ってきた人間にやられたものだ。ヤツはこの行為を“神壊し”と言っておった。ヤツから逃れるためにここまで来たのだが、いつの間にやら周りが見えなくなっていたようだ。貴殿への非礼を詫びよう。だが可能であれば、傷を癒やすためにここの果実を少し分けてはくれぬだろうか」
フィズ神は大きな頭を礼儀正しく下げる。よく見ると頭頂部にも大きな傷があった。
「ふむ、事情が事情だね。オッケー、オレから話をつけておくわ」
話し終えたグラドは、2人へと事情を説明する。管理人は驚きつつも了承してれた。
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