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その後、大樹3本分の果実を食べ終えたフィズ神は、お礼として自身の爪を一本置いて去っていった。神の体は一部でも強い力が宿っている。この爪がある限り、果樹園は数年の間、豊作となるだろう。
3人が帰路に着く頃には、陽が沈みはじめていた。
西日が照らす山道を町へ向かって下りながら、メトルルカは頬を膨らませた。
「それにしても、フィズ山脈の神様を襲うなんて罰当たり! 神壊しってなんなの!」
「ああ、そういえば……僕がマドラシアにいた時に、聞いたことがあるよ」
管理人いわく、これまでの神に頼る生活を見直そうとする一派が存在するという。
そもそもコックテール大陸には、人や獣のほかに数えきれないほどの神がいる。人は神への祈りと信仰を忘れない代わりに、神は人智を超えた力で人や自然を守護している。
しかし一部には、神が持つ強大な力を危険視する者たちもいた。彼らは、神の気分次第で自分たちの生活が左右されることに、不安や疑問を抱いている。そんな彼らの活動のひとつが“神壊し”だ。各地の神を討ち倒すことで、神が存在しなくとも生活できると証明し、さらに人間による人間のための世界を創出しようとしているとのことだった。
「なによそれ! 人間の力だけで生きていけるはずないのに、何でそんなことを……」
「僕もそう思うよ。今日だって、グラド君のおかげで問題が解決できたんだからさ」
2人の視線は前を歩くグラドへと向けられる。傍から見れば十二歳くらいの少年だが、彼は正真正銘、数百年間変わらぬ姿でこのアイデアル一帯を守護してきた神である。
グラドが振り返る。そして困ったように眉を寄せて苦笑した。
「うーん、ずーっと昔にも神と戦おうとする人間はいたよ。でも彼らはちゃんと名乗ってたし、勝敗がつけば潔く帰ってくれた。不意打ちなんてするヤツはいなかったなあ」
「そうよね。やっぱり神壊しなんて、常人がするものじゃないわよ」
町へ戻ってくると、管理人と2人は分かれた。残された2人はアイデアル・グラスを目指す。メトルルカはグラス内の居住区に、グラドは定位置である祭壇へと帰るためだ。
「そういえば、ジークはもう儀式を終えたのかしら」
藍染めの空に星が輝き出す。メトルルカは歩きながら北の方角へと顔を向けた。
メトルルカの幼なじみであるジーク・アイリッシュは、一週間前、成人の儀と衛士の着任式を行うために遠北の大都市ザザへと向かった。ザザ・グラスで成人として洗礼を受け、聖剣を授かった後、他の町の若者とともに帰ってくる予定だと聞いている。
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