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「距離を考えれば明日あたりには帰って来るわよね。どんな話が聞けるかしら……」
「……いや、もう帰ってきたみたいだよ」
グラドの言葉に、メトルルカは思わず立ち止まる。目を凝らすと、農道の真ん中に誰かが倒れていた。それが幼なじみだと気付いた瞬間、全身からさあっと血の気が引いた。
「ジ……ジーク! どうしたの! 何があったの!」
慌てて駆け寄ったメトルルカはジークの手を握る。刺剣を抱えたまま意識を失っているジークは、満身創痍ではあるもののかろうじて息はしていた。
グラドはジークを担ぎ上げると、メトルルカとともにアイデアル・グラスへと急いだ。
大扉をくぐり、祭壇の近くにジークを寝かせる。メトルルカはすぐに呪文を唱え、癒やしの神技を施す。ほとんどの傷を塞いだところで、ようやくジークが意識を取り戻した。
「こ……ここは」
「アイデアル・グラスの中よ。ジーク、一体何があったの……?」
ジークは目だけで周囲を見回すと、何かを警戒するようにゆっくりと上体を起こした。
「騙されたんだ……斧槍持ちのハンターに、命を奪われかけたんだ……!」
「ど、どういうこと? あなたはザザで、儀式を受けてきたはずでしょう……?」
お祈り用の長椅子に座っていたグラドは目をすがめ、ジークの元へと歩み寄る。
「神壊しのハンター、か?」
その瞬間、ジークは目を見開いてせき込んだ。そしていまいましそうに歯噛みする。
「ああ……神壊しのハンターに……皆やられちまったんだ!」
朝霧色の酒を飲んだ瞬間、新成人たちは意識を失った。気が付くと、知らない部屋の中で全身を縛られており、おぞましい光景を目の当たりにした。
「目の前では……さっきまで一緒だったヤツらが、カジノに拷問されてたんだ。あいつは斧槍を振りかざして、おれたちから神の居場所を聞き出そうとしていた」
そしてある程度聞き出すと、カジノはためらいなく若者の命を奪ったという。
「おれは何とか逃げ出したが……途中何度も捕まりそうになって……あと少しでアイデアルに着くってときにも追いつかれて……でもその時、大きなグリズリアがおれを助けてくれたんだ。だからおれは、ここまで帰って来られたんだ」
グラドとメトルルカの脳裏に、フィズ神の姿がよぎる。先に立ち上がったのはメトルルカだった。駆け出そうとしたがグラドがそれを制す。そして小さく首を振る。
「多分、手遅れだ」
「なんでそんなことを言うの! 今ならまだ助かるかもしれな──」
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