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メトルルカが反論しかけたそのとき、突然、大扉が勢いよく砕け散った。
咄嗟にメトルルカは守護神技の呪文を唱える。瞬間、3人の前に光の障壁が出現し、吹き飛ぶ木片や砕けたステンドグラスから身を守った。
土煙が止む。障壁越しに見えたのは、白い斧槍を携えた大男だった。大男は赤黒いかたまりを掲げながら、嫌味たらしく口を笑みに歪ませた。
「山脈の神っていうのも大したことねぇなあ。ま、みやげぐらいにはなるかもな」
投げ捨てられたのはフィズ神の頭部だった。
「あ……あああっ……!」
メトルルカとジークはあまりの悲惨さに、叫び声を上げることさえできなかった。すでに生気を失ったフィズ神の頭は、白く濁った目で祭壇の巨像を無言で見つめるだけだった。
2人の反応にカジノはゲラゲラと笑う。下卑た声がアイデアル・グラスに響く。
「黙れ外道」
次の瞬間、グラドの拳が巨漢のどてっぱらへとめり込んだ。目玉をひん剥いたカジノは、胃液を盛大に吐き出しながら、祭壇を囲う手すりまで飛んでいった。
手すりが粉々になる。グラス片がホコリとともに舞う。
「アンタさ、そういう蛮行がかっこいいとでも思ってるの?」
グラドは手を払い、懐中時計の位置をただす。がれきの中から立ち上がったカジノは、大したダメージもなく、血反吐を吐きながら背の斧槍へと手を伸ばした。
「あいにくコッチもビジネスなんでね。それにしてもこのばかぢから……お前、この町の土着神だな。しかも黒い血ってこたあ竜神か。くくく、ツイてるぜ」
ギラついた目が、グラドの頬から流れるタールのような黒い血を捉える。
「ウワサじゃあ、伝説の邪竜カーディナルも緑眼らしい。ははん、お前のことだな」
月明かりがグラドの瞳を照らす。凍てつくような眼差しにジークは身震いする。笑顔を絶やさない普段のグラドからは想像もできない、無慈悲な神の顔だった。
「邪竜の……伝説……」
──かつてこの世界は悪い竜に支配されていた。支配下の人々は飢えや渇きに苦しみ、明けることのない暗黒の時代を恐怖に怯えながら生きていた。そんな竜の時代を終わらせたのは5人の神官だ。神官たちは竜を頭・体・心臓・翼・尾の5つに切り刻み、封印することに成功した。そしてついに、人々は自由を手に入れた──という物語だ。
グラドは頬の傷を指でなぞり、血を舐めとった。
「さて。何の話やら」
「とぼけてもムダだぜ、邪竜サマ。オレはお前ら邪竜の肉体を集めるために神壊しを始めたンだからな。緑眼、黒い血、専属の神官……そして懐中時計、間違いねぇな!」
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