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背筋を張った吉田知津子の後ろ姿を見送り桜井和貴はそう結論した。
やばいな、と思っていても抜けられない。
自覚症状程度で止められるくらいなら、始めからどつぼになど、はまらない。
抜けられる契機をくれたのは――
* * *
「桜井くん、こんにちは。どうでしょうマラソン日和と言うにふさわしい快晴じゃないですか。……顔色が優れないようですが」
「正直今日は学校休もうかと思った……」寝てないし。
声を立てて長谷川祐が笑う。微笑をキープするのが常の彼にしては珍しい。「では」一本立てた指で目尻の涙を拭う。「目の覚める一発をくれてやりましょう。正門の方でいいものが見れますよ」
「僕動きたくない……、朝、がっつり食べてくりゃあよかったや」トースト一枚で十キロはしんどい。
これからの道のりを桜井和貴は懸念した、が。
「吉田知津子をけしかけたのはあなたでしょう」
「な、ん……」長谷川祐が自分と吉田知津子との関係を知っているかの発言に、桜井和貴は目を見張る。
しかし、と一秒で思い直す。
(……勘づいているフシは、あった)
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