closed hatred inside

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 蒔田一臣が笑うようになった。特に都倉真咲が緑川高校に転入して以来――滅多に笑うどころかあの怪我以降誰の目に見て誰に対しても自分を閉ざしていた蒔田一臣が「どんくせえ」だの時折馬鹿にするかたちであれ彼女を積極的に構う。  そんな女子は緑川高校内に一人足りともいなかった。――遠く離れた他校に通う柴村稜子に対しての態度が過去現在どんなものだったかは知らないが。  宮沢紗優に対して接する態度も――帳尻合わせをしているようにすら思える。  嫌疑の目を持ってすればなにもかもが疑わしい。そういう予感が外れたことはないのだ。だって、 (お父さんが浮気してんのを、お母さんは知らんもん……)  不憫だった。母が、不憫だった。  なにも知らずに――喘息に苦しむ姉を一人で病院に運んでいた頃に父は母や姉が知らぬ女の若々しい肉体に溺れていた。知っているのは自分ひとりだ。  吉田知津子はその秘密を口外せず留めた。言ったところで誰も幸せにならない。父は二度としないと誓った。これらの経験から彼女が学んだのは、 (待ってれば、男のひとはみんな、帰ってくる)
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