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リセットボタンを押すようには行かないけれど、やろうと思えば出来る。
自分の内側だけの問題だ。
他人の目に映る僕という世界そして結末は変わらない。
マキの振動が伝わる。納得の行かなさが伝わってくる。
「好きな女のこともそんな風に割り切れるというのか。大切な人間のことも、全部……」
「喪うのが、怖いんだ」
マキが目を見開いた。
これは僕の本音だった。
「いまんとこ……がっちがちで強張っちゃってんだ。……機械みたく固まっちゃってるっていうのかな、情が、動かない。僕は、……どうすればいいかな」
マキは僕を開放した。その乱暴さに、焦って僕は後ろ手をついた。
これも自分を守ろうとする働きだ。
下されるのは、
哀れみと同情の入り混じった目線だった。
僕はそういうのを受けるのは苦手でかつ――彼は、そういう感傷を表さない気質だったが。
黙って僕のうえから退き、ブレザーの襟をぴんと張って整え、踵を返す彼を、ショートフィルムのコマ送りのように僕は眺めていた。
去り際に一言。
「分からねえやつがんな顔するかよ、馬鹿野郎」
オレンジ色の扉からマキは消え去った。
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