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電話口でそう手短に述べたマキは、現在、煙草をくゆらせるポーズを変えず、僕が移動するのを待ち構えている。
僕は風上を選ぶ。煙草の煙はそこそこ苦手だ。
肺を汚すだけのアイテムによくもこう執着できるものだ。
僕には皆目理解できない。
僕に一瞥をくれ、くわえたまま口の端を引き締める。人を見るときに睨むクセがある。睨んでるように見えるだけの話かもしれないが。
初対面だったらなんかいつも不機嫌なひとだと思うことだろう。
風は地上一階よりか強く、うら明るい空に白煙が溶けていく。
雲に馴染みそうな綺麗な流れだ。
久しぶりに走りこんでみたいなあ、……そんな欲望にからだが疼いた。
「おい……」二度目の目線をくれ、マキは何故だか皮肉げに口許をゆがめた。「……いっぺん死んできたような顔をしてんぞ。どうした」
「マキこそくまがひどいね。寝不足?」
「気分は上々だ」
ねじ込んでまだ半分は残ってる煙草の火を消す。
勿体無いなあと思った。
躊躇わないのがマキという人間の性格だった。
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