#01 I am a guilty man

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「気難しい人だったよ。誰がなに言っても反応しないの。つんぼ……」は差別用語か。耳が聞こえないひとみたいにさ、と僕は言い直した。「家族も、……誰にも言わないけどきっと、手こずってた。勝手にどっか行っちゃうから目が離せないし、本人はどこ行ってたかなんて、忘れちゃうんだよね……週に三回、通いで老人ホームに来てるひとでさ、その縁で僕は知り合った。ま、送迎してくれる娘さんがいるだけあのひと、恵まれてるよ」姨捨山にする家族も決して珍しくは無い。僕はそれを言わずに留めた。「それが、さ、……少しずつ僕の話に反応するようになった。京都の話したとき明らかに瞳がこう、ぱっと開いたんだよね。あとで聞いたら、亡くなったおじいさんと旅行に行った、思い出の場所なんだってさ」  僕も、じーちゃんに関し、似たり寄ったりの話を知っている。  年寄りは古都を好む。 「……こういう感傷的な話をさせるために僕を呼んだの?」 「見ていただろ」  なんの脈絡もなしに振るわれた一言、それが。  強烈な一撃となって僕を刺した。  痛みが、理由づけとなってじわじわと体内に広がっていく。
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