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本の査定がまだ終わっていないことと、外で車を待たせていることを考えて美輪さんは一度家に帰って行き、手帳の件は分かり次第連絡するということになった。
外の雨は止む気配はなく、ついでにと言わんばかりに遠くで雷の音も聞こえる。
私と父は美輪さんから受け取った本を査定していた。
さすがはお金持ちと言うべきだろうか、持ってきた本の質も量もすごい。
雨音が突然くっきりと聞こえる。扉が開いたのだろう。
「ちわーす、いやー雨酷いなこれ濡れちゃったよ」
聞きなれた声がする。
レジに置かれた本の山から顔を出し扉の方を覗いてみる――やはり知り合いだった。
「おや慎太郎君じゃないか、いらっしゃい。今日はどうしたんだい?」
「こんにちはブンコのお父さん、いや今日なんかブンコが早く帰ったんで、忙しいなら何か手伝おうかなと思って。それに今日の部活は雨で中止になっちゃったんで」
「そうか、いつもありがとね」
「いえいえ、それで、ブンコはどこにいるんですか?」
「ああ、文子ならほら、その本の山の向こうにいるよ」
はあ、こっちに話振らなくていいのに。
「おっブンコ、そんなとこで何してんだ?」
「何度も言ってるけど、私の名前はブンコじゃなくて、アヤコなんだけど。私はお客さんの持ち込んだ本の査定をしてるだけ。それで? 北条は何しに来たの?」
「何しに来たのって随分だな。話は聞こえてたろ? 何か手伝えることないか?」
「別に頼んでないけど、手伝ってくれるって言うなら査定手伝って」
「またか、てかこの机の上の本全部査定するのか? すごい量だぞ」
「そうだよ、ほら手伝ってくれるんでしょ」
「……分かったよ」
渋々ながらもちゃんとやりだす。
毎回頼んだことはやってくれるし私も助かるけど、なんで色々手伝ってくれるのかは正直よくわからない。
多分暇なんだろう。
それにしてもこんな豪雨の日にも手伝いに来てくれるなんてよっぽど暇なんだろう。
そうだ、こんな雨なんだから濡れてないわけないよね。
「北条」
私はさっきまで首にかけていたタオルを北条に手渡す。
「へっ!?」
「これ、使っていいよ」
「え! え!?」
「……ん?」
「……あり、がとう」
「ん」
北条は渡したタオルで濡れた髪の毛を拭いている。
父が少しにやにやしている。
雨の音が少し弱まってきた気がする。
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