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北条が手伝い始めて何時間か経ってからやっと査定が終わった。残念ながら美輪さんの言うような手帳は入っていなかった。
「お父さん、そっちには手帳あった?」
「いや、こっちにもなかったよ」
「そう」
「なあブンコー、査定した本はどこに置けばいい?」
「レジの奥に置いといて。あ、箱に名前も書いておいてね」
「この本持ってきた人の名前か? 俺知らないんだけど」
「ああそっか、美輪さんって書いといて」
「美輪さんってあのお金持ちの?」
「うん、多分お金持ちだと思う。着てた服とか、雰囲気とかがそうだったし」
「なるほどね。そういえばさ――」
北条はネームペンで文字を書きながら言葉を繋げた。
「――美輪さんっていえば、この間ご主人が亡くなったんだってよ」
「……え」
私は一瞬手が止まる。
「詳しくは知らないんだけど、前々から何かの病気で体調は良くなかったみたいで、急に容態が悪くなったらしいよ」
「ちょっと待って北条、それほんと?」
「ああ、多分本当だと思う。うちの母さんが美輪家とは結構仲が良くてさ、この間お通夜に行ってたよ。大変だよな」
美輪家のご主人がもう亡くなってる? そんなことは初耳だ。亡くなったご主人の金庫の番号が書かれた手帳を探してるの?
早速明日連絡したときにでも聞いてみようかな。
「北条ほかに何か美輪さんについて知ってることない?」
「んー知ってることか、そうだなぁ、そういえば娘さんがいて確か今年この辺の小学校に転校する予定って聞いたけど」
「それもお母さんから? すごいのね」
「まあな。この辺りのママ友の情報網は怖い位だからな」
「そうだね、怖い怖い」
「慎太郎君、暗くなってきたからそろそろ帰った方がいいんじゃないか。雨ももう上がった」
父が北条に帰宅を促す。
おそらく父も北条の家庭の事情を知っているのだろう。
「はい、じゃあお邪魔しました!」
「手伝ってくれてありがとうね」
父がお礼を言ったので私も何か言っておこう。
「ん、また手伝って」
「おう、いつでも手伝うよ、また呼んでな」
いや、別に今回も呼んだわけじゃないんだけど。
外の雨はもうすっかり止んでいて、それなりに星も見えていた。
北条はその星空の下を走って帰って行った。
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