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三輪さんの家に着くと可愛らしい女の子がお出迎えしてくれた。
「お帰りお母さん! と、お姉ちゃん?」
北条が言ってた娘さんだな。
私を見て戸惑っているようだ。
「こんにちは」
一応挨拶しておこう。挨拶は人間関係の基本っていうし。
「こ、こんに……わ」
おや、シャイなのかな?
「文子さん、こちらにどうぞ」
美輪さんに呼ばれて奥の部屋へ行く。
「じゃあね」
私は娘さんに手を振る。
するとその子も手を振り返してくれた。なんて可愛いんだろう。
……持って帰ってしまおうか。
「可愛いでしょう、うちの娘」
「え! あ、はい」
びっくりした。心を読まれたのかと思った。
「あの子、私たちが年を取ってから出来た子なの。だからあの子のことが可愛くて可愛くて、ついつい甘やかしてしまうのよね」
「そうだったんですね、でも確かにとても可愛かったです」
美輪さんは心なしか少しうれしそうな顔をしていた。
本当にかわいく思っているのだろう。
それにしても長い廊下。どれだけ大きいんだこの家。
「この部屋で少し待っていてください。手帳を持ってきます」
「あ、はい」
私は畳が敷かれた、ほど良い広さの和室に案内された。
いい匂いがする。
高そうな部屋だ。目が勝手にきょろきょろしてしまう。私が慣れている家の部屋とは全く違う。
当たり前か。
見回していた私は一枚の写真に目が留まった。
家族写真のようだ。
「これは」
「それが私の夫です」
「ひっ」
美輪さんがいつの間にか戻ってきていた。
「この方が」
「ええ、その写真の人がこの間逝ってしまった私の夫の美輪浩一です」
すごい真顔だ。写真が苦手だったのかな。
「その写真は主人が亡くなるちょっと前に娘に渡したものなの」
「へえ、何でですか?」
「さあ、わからないわ」
それもそうか、もういないのだから。
「それで、これが手帳です」
美輪さんから渡された手帳を開いてみる。娘さんの事しか書いてない。親バカだったのかな。
「娘さんの事しか書いてませんね」
「そうなのよ、私も昨日これを読んで驚いたわ」
「驚いた? どうしてですか?」
「主人はあまり娘に関わっていなかったから、仕事人だったの」
「なるほど」
私は美輪さんと話しながら手帳をすべて読み終えた。
「本当に娘さんの事しか書いてませんでしたね」
「……ええ」
「まあとにかく、探してみましょうか」
私と美輪さんはそこからこの広い広い美輪家を一切れの手帳の切れ端を目標に探し回った。
ご主人の服のポケットの中や引き出しなどありそうな所を徹底的に。
五時間も。
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