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四.
アンジョレッタの口からでまかせを完全に信じるだけあって、とでも言いましょうか、アロンツォは本当に人の良い紳士であり、フィレンツェ中心地に豪邸を持つ大富豪であるにも関わらずそれを鼻にかけるようなことも無く、誰しもに優しく、誰からもいつでも尊敬と感謝の言葉を掛けられては、私はただやらなければならないことをやっているだけなのだよ、と軽く手を振って見せるのでした。
そんな彼のおかげで仕事も住処も得たアンジョレッタは、アロンツォ邸の隣に建てられた美しく荘厳なアッパルタメントで、下は五歳から上は四十過ぎまで、様々な理由で行き場を失った男女三十名余りの中に上手く溶け込み、それから一年程はきちんと家政婦の仕事をこなしておりました。
が、時折、村で謳歌していた自由な男女交遊が思い出され、今ここが大変恵まれた環境であることはわかっていつつも、なんとなく窮屈や退屈を感じ始めてもいました。
その整った顔立ちから同居人の男子たちから多くの誘いを受けながらも、ここにいるような真面目で正直な者たちと関係を持つのは面倒だということを経験上理解しているアンジョレッタは、それら全てを断っており、なんだかちょっと物足りないなぁ、などと思っていたある日のこと。
フィレンツェ中の全ての有力者を集めたかのような豪華絢爛なアロンツォの誕生パーティーが、アロンツォ邸の大広間にて行われることになりました。
普段は特別な客人に会えるのは年長の家政婦のみでしたが、その日は人手も足りず全員総出で事に当たることとなり、アンジョレッタも給仕に駆り出されました。
多くの貴族や商人やその家族たちに食事や酒を運び大忙しの一日でしたが、一通りの挨拶や食事が終わると女子供たちは次々に帰路につき始め、残ったのは酒にほろ酔い各々に歓談する男衆のみとなり、家政婦たちもほっと一息をつく中、アンジョレッタは一人密かに目を輝かせ始めました。
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