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「一応確認しておくけど……シンデレラの話、だったよね……?」 ここまで話し終えたところで女が大きく息をついて口を閉ざしたので、私は首を傾げながら彼女に尋ねた。 「そうよ。その後アンジョレッタは気を失って、目を覚ますと夜明けの全く見知らぬ街だった。きっと眠っている間にどこか遠くへ追放されたのだろうと思って、とにかくなんとか寝泊まりする場所を探そうと奔走(ほんそう)したけどどうにもならなくて、やがて陽が暮れ始めたの。そしたらね、彼女の体に異変が起きた。自分ではとても抑え切れないような激しい体のうずきが彼女を襲い始めたのよ」 憂いげに、しかし(わず)かに淫靡(いんび)に笑みを浮かべながら、女は天井を見上げたまま話の続きを語り出した。 アンジョレッタはそのうずきに操られるが如く街を彷徨(さまよ)い、手頃な男に声を掛け一夜を共にすることにした。 「あぁ、この異常な衝動が呪いなのかしら、なんて思いながら男の腕に抱かれてたら、急にね、体の感覚が薄れていって、意識も遠ざかり始めて、自分の体が透けて無くなっていくのがわかったわ。そして何よりも嫌だったのは、その時に男が見せた化け物を見るような目よ」 大きくため息をつき、 「そして気が付くとまた明け方の見知らぬどこかで目を覚ましたわ」 と女は続けた。 「ふぅーん……あぁ、もしかして、その消えてしまう瞬間というのが夜中の十二時で、だからシンデレラのお話ってことなのかい?」 「そう。でも彼女がシンデレラなんて言葉を知るのは、それからそんな日々を二百年近くも重ね続けた後のことだけどね。その日目覚めたのはフランスのオルレアンで、その夜を共にしたのは二十歳の学生、シャルル・ペローだった。彼は詩人でもあり、学生たちの間でちょうど昔話を元にした詩を書くのが流行っていたこともあって、彼女が身の上話をするととても興味深げにメモを取ったりして、『ちょっと脚色することになるけど、君の話を一編の物語にまとめてみるよ。題名は……そうだな、サンドリヨンとか、悪くないね』って嬉しそうに笑って彼女を抱き締めたわ」 「サンドリヨン?」 「フランス語ではね。これを英語で言うと、シンデレラよ」 「で……つまりその時そのシャルルって人が書いた話がいわゆるみんなが知ってる『シンデレラ』だって……?」 「そういうことみたいね。不思議なものだわ、それからさらに四百年近くが経っているのにまだ残ってるなんて……やだ、十二時まであと五分じゃない。あたしもう行かないと」 女が慌ただしく身を起こし私の上を乗り越えてベッドから滑り降りると、手早く衣服を身に纏って扉へ向かって歩み出した。 「ちょっと待って、まさか君がそのアンジョレッタだった、なんて話じゃないだろうね?」 私の問い掛けに足を止めた彼女が、小さく笑みを浮かべながら意味ありげな目を向けた。
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